重金属を好んで養分とする性質を備えた植物のひとつ。
そのため昔、金属の鉱脈を探す山師たちが目印にもしていたという。
アブラナ科の植物で白い花をつける。
ダウジング・フラワー
国内では北海道と本州および四国・九州の一部で、山地の日当たり良い場所で見られる植物だが、冒頭で触れたように稀有な特性を持っている。
重金属を高濃度で体内に蓄積することができるのだ。
こうした植物を「重金属高集積植物」あるいは英語読みそのままで「ハイパーアキュムレーター(Hyperaccumulator)」と呼ぶ。
どちらで表記しても妙にカッコいいな、なんか……。
同じような性質の植物として、ヘビノネゴサ(蛇の寝茣蓙)というシダの仲間があり、ハクサンハタザオと共に生えていることがよくあるらしい。
いずれも上記の特性から鉱山で取り分けよく見られる植物で、金や銀、銅などの鉱床・露頭によく育つ。
鉱脈探索の指標となるので、ヘビノネゴザのほうは「金山草(かなやまそう)」なんて別名があるくらいだ。
これらは勿論、かつて鉱山地帯であった場所で今もよく見られる。
研究の進んだ現在、植物の種類によって好む金属は異なり、また植物の部位によっても集積される金属が違うケースもあるということが判っている。
後ほど書くが、この特性を活かした研究も行われており、近年注目されている。
好条件降伏
このハクサンハタザオ、名前の由来は石川県の白山で見つかったことによるものだ。
因みに同様の由来で、名に「ハクサン」を冠する植物はかなり多い。※1
中でも高山植物に多く、これは白山が古くから山岳信仰の対象で、登る人や修行する人が沢山いたため目に触れる機会が多かったのだろうという。
「ハタザオ」はそもそもこの仲間の総称だが、そのまんま一本ピンと立っている様子が旗竿に見立てられたことから付いた名である。
花が咲いた後に茎が地面に倒れ、そのあと葉の腋から新苗が出てきて殖えていくという。
倒木から新たな木が……みたいな話だが、“白”い花をつける“旗”竿が倒れてまた新芽を出すと聞くと、なんだか「ただでは倒れぬぞ」みたいな意気を感じなくもない。
実際に見てみたくなるが、この様子を観察するのは機会として難しそうだ。
そもそもパッと見と名前が似たような植物が多く、細かい特徴を把握していないと先ずハクサンハタザオの見分けも困難だと思うが。
ヤマハタザオ、フジハタザオ、イワハタザオ、イブキハタザオ、エゾハタザオ……etc.
上記幾つか写真を調べて見ただけでも、正直さっぱりわからない。
更にそれらの生息域が重なることも多い。
例えば滋賀・岐阜にある伊吹山ではハクサンハタザオとイブキハタザオが混生している。
動植物の特定はなかなかに困難なものが多いが、こいつぁレベルが高いぞ…。
魔法の杖は如何に。
先ほど触れたが、このハクサンハタザオの特性を活かせないかという研究がある。
重金属、その中でもカドミウムをよく吸収・蓄積する性質を利用して、土壌汚染の浄化に活用できないかというものだ。
食の安全の観点から土に含まれる有害物質の問題はよく叫ばれてきた。近年はとりわけ人々が気にするようにもなったので尚更だろう。
最近だと築地市場の豊洲への移転に関わる土壌や水質の問題がホットだ。
様々な研究機関や企業が論文を発表、検討や方法の模索を重ねている。
因みに、こうした植物のもつ特性を利用して環境中の有害物質を分解・除去あるいは固定する技術をファイトレメディエーション(Phytoremediation)と呼ぶという。
これはこれでまた魔法だか必殺技だかみたいな語感だが、環境にまつわる諸問題への、まさに切り札と言える解決策が生み出されるかどうか。
信仰の山から知られ広まった小さな花が救世主になるかもと思うと、変なワクワクを感じてしまう。
目に見えずとも生活や健康にも直結する話なので、魔法と見紛うほどの科学――とはいかずとも、少なからず有効な手法が確立されることを期待したいところである。