ある2つの画像(図形)を並べて「どちらが『ブーバ』でどちらが『キキ』か」という質問をする。
すると不思議なことに母語や年齢・性別によらずほとんどの人の回答が同じになるという。
現象として大変面白い。
「ブーバ/キキ効果」はこの実験および結果を指す心理学用語である。※1
なんでそうなる
これに使われる図形とほぼ同じものを作成し、本記事の画像にも表示してみた。
どうだろうか。矢張り私もツンツントゲトゲしていうほうが「キキ」である気がする。
ところが、“それが何故なのか”は説明し辛い。およそプリミティブな所に理由がある気がして「そう感じるから」としか言いようがないのだ。
人間の視覚的イメージと語感の相関を示すものであり、潜在意識や連想についての心理テストであるとも言えるだろう。
ある実験では、実に98%の回答が一致するという驚くべき結果が出ている。
生まれ育った環境も話す言語も違う老若男女の間でこれが同じになるのは何故なのか。
一説には「ブーバ」「キキ」それぞれの音を発声した時の唇の動きや形状により似ている図形を、無意識のうちに選ぶのではないかと言われている。※2
ブーバパパ
私はこれで母親・父親の呼び方の話を思い出した。
幼児がお母さん・お父さんを指してはじめ「ママ」「パパ」と言うことが多いと思うが、世界中の多くの言語で近い発音の言葉だという。
詳細は省くとして、要は言語を習得し始めた段階の幼児でも声に出しやすい発音であるということだ。
これも、唇が接する、口を大きく開けやすい等といった点が言語に依らず共通する。
現代日本の例では「はは/ちち」と言うより「ママ/パパ」と言うほうが、発声としては圧倒的に楽なのだ。
大人でも単純な“言いやすさ”だけで考えればそうだろう。
そして、あくまでも推測――というか私の考えだが、発声が“易しい”ということは、即ち印象や体験としての“優しい”にも通ずるのではないか。
親しみや柔らかさや温かさ、あるいは安心や安全のイメージがそこから連想として根付くのではないだろうか。
ヒトとて生き物である。いち生物としては、根源的には自身に害を成さないものが“やさしい”ものである筈だ。
そうすると、触れると刺さったり傷付いたりしそうな直線的で尖ったものより、柔らかそうで曲線的なものが、上記の“やさしい”イメージに近い。
まあこれも外骨格でない哺乳類ならではの発想かもしれないが……。
棘を持つようなシェイプよりも、丸みを帯びたシェイプのほうが、発音時に唇が丸まり触れる「ブーバ」に相応しいと感じるのはそういう原因もあるのかな、と考えていた。
もっとも、「ブーバ」には何かが膨張・拡大・破裂するようなニュアンスも含まれそうなので、例えばこれがただの円形だったりしたらまた実験結果は違ってくるのでは? とも思う。
あと関係ないけど、絵本キャラクターでおなじみの『バーバパパ』が、なんだか名前も形状もブーバに似ている気がする。
ほんと全く関係ないと思うけど、やさしい印象や親しみやすさみたいな意味では共通点もあるのかも……しれない。名前の元ネタもフランス語で「綿菓子」※3だし。ふわふわでやさしい。
脳機能の秘密に迫るか?
因みに、脳の一部に損傷のある人や自閉症の人が被験者となった場合、冒頭で述べたような大幅に偏った結果にはならなかったらしい。
この効果の命名者である心理学者※4によると、
こうした人たちが隠喩の解釈が苦手であることから、そこにも何か関連があると考えられるという。
他分野の類例や活用の可能性
ブーバ/キキ効果に近い話は、ネーミングや、会話・文章中での擬音語や擬態語、漫画におけるオノマトペなどでもできそうだ。
個人的に気になるトコだと、子供の攻撃音の声や中二病じみた表現で言うところの「デュクシ」とかそういう…w
かつてテレビゲームやアニメなどのエンターテイメントにおいて子供たちに共通体験が多く、そこに使われていた音が近かったからだ、等の推測は立つけれど、何故か未だにあれ広く通じる気がするので潜在意識的な話で議論できそうだと思うのだ。
あとは、人間の感覚と表現に纏わる話なのでデザイン分野でもよくよく考えらえることであろう。※5
というか私は本業がデザイナーなので、そっちの切り口で紹介・考察したほうが良かったのではないか。何をやっているんだ。あほなのか。
せめてもの小ネタを放り込むなら「Photoshopのカスタムシェイプツールのアイコンがとっても“ブーバ”だよね」とかそういう……。
……まあ、長くなってきたのでデザインがらみは別の機会があればまた、ということでひとつ。